福岡高等裁判所 昭和37年(ラ)157号 決定 1963年1月17日
抗告人 林征子
主文
本件抗告を棄却する
抗告費用は抗告人の負担とする
理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりであつて、当裁判所の判断は次のとおりである。
戸籍法第一〇七条第二項によると名の変更が許されるのは正当な事由がある場合に限るのであつて、同条項にいう「正当な事由」とはその名を以てはその人の社会生活上に著しい不利、不便があると認められる場合をいい、新しくつけようとする名は戸籍法第五〇条の法意により常用平易な文字を用い不適当でないことを要すると解する。
そこで本件について考察する。本件記録中の家庭裁判所調査官の調査の結果に抗告人及び抗告人の母林和子に対する各審問調書を綜合すると、抗告人は昭和二〇年五月八日生れで、右出生二日後に抗告人の父林敬一が応召したので、父の友人によつて抗告人の名を「征子」と書き「もとこ」と呼称するよう命名され、その旨戸籍に登載されたのであるが、抗告人の中学一年の半頃から抗告人の両親が右の名は敗戦後の抗告人一家の悲慘な生活状態を聯想させ好ましくないというところから抗告人の名を「万恵」と書き「かずえ」と呼称するようになつたこと、抗告人は現在高等学校二年在学中であることがそれぞれ認められる。
抗告人は前記通名の呼称について前記の如き動機があり且本名を通名どおり変更されないと抗告人の日常生活に頗る不便であると主張するけれども、右主張の如き動機は名を変更しなければならない正当の事由と見ることはできないのみならず、抗告人は前記認定の如く学生の身分であり通名を使用して約四年に過ぎないのであるからこの程度を以ては右の通名に変更しなければ抗告人の社会生活上に著しい支障を来すものとは考えられない。
殊に抗告人が新に付けようとする名は前記通名のとおり「万恵」を「かずえ」と呼称しようとするもので、その読方に難解のそしりを免ぬかれないのでこの点からも抗告人の新に変更しようとする名は適当でない。
よつて抗告人の改名許可の申立は理由がないので、これと同旨の原審判は相当であり本件抗告は理由がない。よつて家事審判規則第一八条、非訟事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条、第三八四条、第八九条を適用し主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 中園原一 裁判官 厚地政信 裁判官 原田一隆)
抗告理由 省略